「薬剤師」の資格を取得するには6年制の薬学部を卒業し、薬剤師国家試験に合格する必要があります。
その6年制薬学部で勉強するカリキュラムでは基礎教育から臨床、さらには医療人としてのコミュニケーション能力まで多岐に渡って学ぶことになります。
特に、現在のカリキュラムでは医療機関や薬局などの医療現場での実務実習が重視されており、その実習に参加するには薬学共用試験(知識を評価するCBT試験と実技や態度を評価するOSCE試験)に合格する必要があります。
2019年に実施された第104回 薬剤師国家試験では病院・薬局以外での災害時医療のシチュエーションも試験問題として出題され、薬剤師には医療現場での実践力が求められています。
これらの教育を背景に、薬学部生は自然と薬剤師の資格を生かした仕事として「病院」や「薬局」、「ドラッグストア」を目指す傾向があります。
しかし、薬剤師の資格は生かさないものの、薬剤師としての知識を活かす職場として「製薬企業」があります。
本記事では以下の4つのタイプの製薬企業での薬剤師の活躍の場を紹介し、製薬企業で働く薬剤師のやりがいも紹介します。
- MR(医薬情報担当者)
- 研究開発職
- メディカル・サイエンス・リエゾン(MSL)
- 安全性情報担当
目次
製薬企業の職種
製薬企業には様々な職種があります。時代とともに求められる知識や技能は変化しており、新たに生まれた職種もあります。
ここでは製薬企業を構成する主な職種を紹介します。
MR(医薬情報担当者)
MRは「医薬情報担当者(Medical Representative)」と呼ばれ、製薬企業の営業部門に属する職種です。
しかし、ここで注意すべき点は他業界の営業とは異なり、MRは「価格交渉」や「納品」を直接行わないことです。
価格交渉や納品は医薬品卸業者の営業(MS、Medical Specialist)が担当します。
MRの仕事は、医薬品の適正使用のために情報の提供や収集を通して、自社の医薬品を普及することです。
MRには薬学部出身者も一定数います。MRとしてキャリアを築くには「公益財団法人 MR認定センター」によるMR認定試験の合格は必須であり、薬剤師の場合にはこの受験科目の一部を免除されています。
MSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)
MSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)は2010年以降に外資系企業を中心に立ち上げられた新しい職種です。
医師への情報提供の役割は現在もMRが担っていますが、エビデンス構築や高度な医学・科学的な情報提供を行う職種としてMSLがいます。
具体的には、製薬企業では全国のエリアを網羅するようにMRの社員数が圧倒的に多く、そのMRからの連絡を受けて必要に応じてMSLが高度な医学・科学的な情報提供を行っています。
MSLの職種としては自社製品に限らずに幅広く高度な知識が求められることから、研究開発職の出身者や医師免許の保有者が重宝される傾向があります。
MSLの役割や仕事内容を日本製薬工業会が「メディカル・サイエンス・リエゾンの活動に関する基本的考え方」として明文化しているので、参考にどうぞ。
研究開発
研究開発は「研究職」と「臨床開発職」に大きく分けられます。
「研究職」は、イメージ通りの白衣を着て実験することが中心の職種です。基礎研究から臨床試験へ繋げる役割を背負っており、細胞や動物を扱ったり、製剤設計を工夫する仕事をしています。
「臨床開発職」は、その仕事内容は幅広く、安全性関連の仕事も含むこともあります。実際には、臨床開発と薬事・薬制、安全性管理は製薬企業で別部門として設置されていることが多いです。
いずれの仕事も新薬を患者さんに届け、市販後の安全性を適切に評価し、自社製品を適正に使用されることを目標としている仕事です。
薬剤師の資格は必須ではありませんが、薬に対する知識は必須になります。外資系企業や大手国内企業では扱う医薬品の種類が多く、薬理メカニズムも多様であるため、薬学の知識があると新しいプロジェクトでも順応しやすいというメリットがあります。
安全性管理
安全性管理部門は新薬の承認申請時のRMP(Rsk Management Plan)の作成や市販直後調査の実施、日々の安全性情報の収集と評価が主な業務になります。
医療機関からの電話対応といったコールセンターの業務を担うこともあり、安全性関連の業務範囲は新薬の承認申請から市販後まで幅広く、製薬企業によっては細かく部署が分かれています。
安全性部門においても薬剤師の知識が生かされます。特に患者背景の疾患情報や併用薬など、医療系学部で学んだ知識が総合力として試されます。
製薬企業における薬剤師
製薬企業で働くには薬剤師の資格は必須ではありません。
しかし、薬理や薬物動態、製剤設計などの薬学に特有な知識を習得した薬学出身は製薬企業での活躍の場が広くあります。
また、製薬企業での職種は限られるものの、病院や薬局を経験してから製薬企業へ転職することも可能です。特に外資系メーカーは多様な人材を求めていますので、前職での経験を強みとして打ち出すことで製薬企業へ転職している人もいます。
薬剤師の知識
薬学部で学んだ知識や経験は製薬企業でキャリアを積む上では大きな土台になります。
抗生物質や抗がん剤、生物製剤など、製薬企業が扱う医薬品の種類は多岐に渡ります。
領域に特化したスペシャリティーファーマもありますが、国内外の大手製薬企業は幅広いジャンルを扱っており、そこで活躍するには薬学の知識は必須です。
薬剤師にはその土台が備わっているので、キャリアのスタート時に職種の専門性を高めていくことに集中しやすいというメリットがあります。
資格よりも努力と強み
製薬企業では「医師」の資格を有する場合には社内医学専門家などのポジションがあったり、外資系企業では一定のポジション以上には医師や博士号などの資格が求められるケースがあります。
一方で、薬剤師や看護師の場合には資格に特有な仕事はなく、基本的に資格で優遇されることもありません。
ビジネスマンとしては出身学部に関係なく周囲の同僚と横一線です。自分自身の努力や強みの作り方でキャリアを積み上げていくことになります。
ただ、薬剤師になるまでに培った知識や経験は製薬企業で働く際には間違いなく武器になります。さらに、英語力や他にも深い知識や専門的な実務経験などあれば、その一つ一つの組み合わせが大きな強みになるでしょう。
製薬企業で感じるやりがい
製薬企業は薬を開発し、より良い薬を医療現場に届け、患者さんを救うのが使命です。
それは社員にとっても目標であり、やりがいですが、ここでは日々の日常業務やキャリアの積み上げでのやりがいも説明したいと思います。
医薬品開発の工夫
研究開発に携わる職種の場合、新薬を日本でどのように開発するのか、早期に承認を得るにはどのような戦略を立てるべきか、プロジェクトチームで議論し、マネジメント層へ提案します。
市販後の売り上げを見積ったり、開発に要するコストを算出して、ビジネスとして成り立つのか議論を深めます。
大きなビジネスとしては成り立ちにくい新薬でも、アンメットメディカルニーズがあれば、製薬企業の使命として開発を行うという決定を下すことがあります。
その場合には、オーファン申請(希少疾病用医薬品指定)などの制度を活用することもあります。
そういった製薬企業としての使命を背負いながら、ビジネスとして成り立たせるために、チームメンバーで開発戦略を考え抜いて工夫し、提案することにもやりがいを感じます。
求められる情報の提供
薬には有効性と安全性があり、そのリスクベネフィットが患者さんにとって総合的に有益であれば国に承認され、販売されます。
承認後、発売される薬の特性やリスクベネフィットを医療現場へ適切に提供する必要があります。
その情報提供の役目を果たすのがMR(医薬情報担当者)やMSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)であり、そういった必要な情報を臨床試験で評価し、エビデンスを創り出すのが研究開発、市販後に臨床で使用された安全性情報を収集・評価するのが安全性管理の役割となります。
こういった薬の情報提供の流れに社員の一人一人が貢献しており、医療現場や患者さんから求められている「薬」と「情報」を扱うことにもやりがいを感じます。
ビジネスマンとして成長
製薬企業では医学や薬学の知識を生かしつつビジネスマンとしてキャリアを積み上げることになります。
薬剤師の資格を生かさずに勿体ないと感じる人もいるかもしれませんが、薬学の知識をベースに企業で働きながらビジネスマンとしてスキルを磨くことは「薬剤師 ✕ ビジネスマン」として2つの軸をもつことになり、自分の強みにもなります。
製薬企業では社内で部署異動が可能なので興味がある職種へキャリアチェンジすることも出来ますし、外資系企業であれば英語力が鍛えられる環境です。
プレゼンテーションやディスカッションする機会も多く、薬剤師でありながらビジネスマンとして自分自身の成長が実感できるのもやりがいです。
まとめ
本記事では製薬企業で働く薬剤師の職種とやりがいについて紹介しました。
製薬企業で働く場合、病院や薬局で働く薬剤師のように患者さんに接することはありません。
しかし、製薬企業で新薬の開発や普及に携わることで数多くの患者さんを救うことになります。
また、製薬企業だからこそ身に付くスキルや学べることも多く、「薬剤師 ✕ ビジネスマン」として自分を成長させることができます。
薬剤師の方には、製薬企業で働くことも選択肢の一つとしてぜひ考えてもらえたらと思います。
以上、製薬企業の研究開発職で働いてきた薬剤師パパブロガーのアツポンでした。